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売れるための注

私は翻訳小説には注がついていてよいと思ってます。
というか、つけておくべきではないのかな?って。

いまはインターネットでなんでも調べられる時代ですけど。スマホ片手に紙媒体を読むわけじゃないですよね、フツーは。
文中が無理ならば、最後にまとめてでもいいし、訳者あとがきの中ででもいい。

その思いを強くして読んだのが、これ。最近、少しずつ増えているドイツのミステリー。
シーラッハのような意識高い系の「本格派ミステリー」じゃなくて、もっとコージーな感じのもの。
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日ごろ、意識が低く地上に穴掘ってるような私でも読める!そんなタイプのミステリーです(なだけに、ドイツを知ってもらいたいと日ごろがんばっている意識高い系の書評家のみなさんは、なぜかなのかやっぱりなのか、とにかく全くもってこの本に触れてない)。
ドイツ南部の警察が舞台のミステリー小説。

もう最初っから「プッ」となっちゃいましたよ。ええ。
たまたま、私がこれまでの何度かの旅行の間に「あ?!」みたいにうすうす感じてた、というようなコトが盛りだくさんなミステリーだからです。
なんといっても、1ページ目からケーゼシュペッェレなんて出てきちゃって(笑)。ここには( )でドイツ南部の伝統的パスタ、と説明がついていた。ラムたんがすきなシュペッェレだ、と私は読み替え(笑)(注1)。
67ページのイケアのカタログ云々の話。ああー、まだ「日本でも」行ったことがないイケア(注2)!
128ページから129ページにかけての「ピルチャー」(注3)の小説やらテレビドラマやらについてのクルフティンガーの「男性・夫としての見解」。いきなりピルチャーと出てきたとき「えーっと、ロザリンド・ピルチャーのことよね?」と。
ピルチャーは私も好きな作家だし、ドイツへ行けばほぼ毎回彼女の作品をベースにしたテレビ映画を見てるし(最近ではつい2週間前に見たばかり!)。あ、ピルチャーのテレビ映画のために渡独しているわけではありません。結構な頻度でZDFがピルチャー・アワーを放送してるってことで。
(ちなみに、私のピルチャー考はこちら
あと、ドイツの警察ドラマの金字塔(?)Tatort「事件現場」を揶揄る文章があったり。これにも( )でドイツで人気の刑事ドラマという説明があった。
Tatortも都市別シリーズがある(注4)。このクルフティンガーシリーズもご当地小説。そのあたりをひっかけた内容じゃなかろうか、と思うのは私だけでしょうか?
日本でも最近は「方言ブーム」なわけですが、あとがきによれば、実はこのクルフティンガー・シリーズは読み手を考えてほぼ全文が標準語で書かれてるそうですけど、ある登場人物のみ「方言丸出し」にしてるらしい。さらに、数年前に方言でこのシリーズの1作がドラマ化され、ほとんどの人が聞き取れなかったのに評判だったそうです。ミステリーチャンネルで字幕つけて放送してくれないかなあ~。
クルフティンガーがドイツ語をつかわない(つまり英語の)言い方をする「若い人」にイラっとくるシーンが何度も出てくるのですが、die Prinzenの「Be cool speak Deutsch」という歌を思い出しちゃったし(注5)。

等々、ゆるい系の私には面白いのですが、一つ気になることが・・・。
小説のなかにどんだけ出てくるのか!と書き出しそうになった「地名」。ケルンとかミュンヘンとかだったら、私も頭の中のドイツ地図に置ける。アルゴイ地方なんてミュンヘンから考えたらどっちの方向なのかわかりませーん。
私の手帳はドイツ製なので(伊東屋の取り扱いですが)ドイツの地図が載ってます。それを見たらわかるかな?と思いきや、ものすごい大都市と州の区分けがわかるだけ。アルゴイ、どこよぉ~(怒)。それぐらい「レアな地(方)名」なわけですよ~。
昔、翻訳小説がキライという人の多くは、登場人物の名前がわからなくなって、折り返しをなんども見直さなければならいのが面倒と言われていました。ドイツ語の小説の場合、苗字だけでも長かったりする。に加えていきなり「知らない」地名があれこれでてきたりして、処置なしだなんて。なんで翻訳出したんだろう、って面白い推理小説なだけに、翻訳で読めて嬉しい反面、疑問がいっぱい。
翻訳家さんはそういうことをハヤカワと打ち合わせなかったんでしょうかね?
ネットがあるんだから自分で調べろ、かもしれないけど、1作目ぐらいは、売るための努力として地図をつけてもいいと思うのだけど。それにwikiってみましたけど、あれだけ?みたいな感じだし・・・。

本国ではこの本は7冊目まで出ているそうで、ハヤカワがいつもの気まぐれを起こさなければ翻訳がこの後も出るのではないかと思うのです(まあ、ハヤカワも最近はロマンス小説と寒い寒い北欧の警察物ばっかに全力を尽くしているようで不安がありますけど)。

せめて2冊目からは・・・。地図、おねがいしまーす!

ってここに書いても翻訳関係の方が読むとは思えないけれど、実にもったいない。でも面白いミステリーです。
あー、ドラマもみてみたい。吹き替えじゃなくて字幕でね!残りの作品も早く翻訳されますように~。






(注1)ワタシがラムたんの言葉が聞き取れないのは、彼の方言のせいではなく、彼の早口のせいです。
(注2)イケアは車がないといけない店だったのですが、立川店は電車で行けると知りました。しかし、壁が少ない家に越した私たち。買うことができる家具がありません。ということで、依然として縁遠いまま。ああ、ミートボールを食べに行きたい。
(注3)この小説でピルチャーについての注がついていないことは、本当に残念。日本でも翻訳が出ているのに。ゆえに、文中のさえない中年男性の愚痴のおかしさも半減。ドイツの典型的な中年女性動向もあれじゃわからないでしょうね。個人的には、ZDFのこのピルチャーのドラマシリーズをなぜNHKが買わないのか不思議に思います。日本人が好きなコーンウォールなどロンドンから少し離れた田舎街が舞台だし。同じアジアの男性に夢中になることに怒り狂う日本人男性も「白人男性」には弱いから、韓流ドラマの時のようなパッシングは起きないと思う。ただし、海外ドラマは絶対字幕派(例えば私)なんかは、吹き替えだと「ドイツ語話者俳優によるドイツ語セリフによるイギリスを舞台にしたドラマ」という「三叉神経を一撃される楽しみ」が味わえないと文句言いそうだけど。
ちなみに、新しい翻訳(残念ながら中村妙子訳ではない)がでたそうですよ。だからなのか、時折、私の「ピルチャー考」をググって読んでくださっている方がいるようです。
(注4)日本では絶対に見られないドイツ刑事ドラマの金字塔Tatort。先日の渡独中はご当地もの(ドレスデン)と10余年前の再放送をチラっとみることができました。きっとその地方独特の言い回しが満載だったのでしょうけれど、残念ながらワタクシにはそこまではわかりませんでした。しかし、刑事と制服組のやや複雑な関係については、それとなくわかる回でした。
(注5)Die Prinzenは東独時代から活動をしていた、今なお現役のドイツのポップグループ。ドイツ代表キャプテンであったオリバー・カーンの男らしさを称える「オリ・カーン」という曲の日本語バージョンの歌詞がNHKで取り上げられたことによって、一部の人には有名。聖歌隊出身者らしく、音程・発声・滑舌が整っている「聞きやすい」曲が多いけれど、歌詞はめっぽうアイロニー満載。Be cool speak Deutschは、ドイツ語としての単語があるにもかかわらず英語に置き換えられている昨今の状況を揶揄った歌。タイトルからして私なんてプクク・・・です。
Commented by 虎ママ at 2016-09-12 03:27 x
こんにちは。9月半ばですが、毎日、暑い日が続いています。夜は気温が下がって、一番いい季節、、ああ、でも、明日から学校が。。
なーん年も前にピルチャーのZDFを見て、ねぇ、私たち、これからはduにしましょう、っていうセリフをイギリス舞台、イギリス人なのよ、というお二人が。。思わず、わっはっは、となってしまいました。ドイツ語だから最初は「敬称」のSieだし、でも、仲良〜くなる二人なんだから、そのままにはしておけないし。。。
このクリミー、私も呼んてみよっと、思いました。ありがとうございます。
Commented by eastwind-335 at 2016-09-17 14:37
虎ママさん、こんにちはー。
東京はまだ暑いですよー。今日30分散歩しただけで汗だくだく・・・。
この小説の中でも「Sie」から「du」にしたい人としたくない人のせめぎあいがあります。ふふふ。
そうそう、安藤さん関係の新刊本の書評を見つけました。またメールしますね!
by eastwind-335 | 2016-09-08 19:54 | Books | Trackback | Comments(2)

東風のささやかな毎日のささやかな記録


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