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本をめぐる映画

少し前の話になりますが、知人の企画で、戦中の日比谷図書館の一部の本を疎開させるエピソードと、「人と読書」という行為を特別なものではなく、生活文化としていくために頑張った人々の想いと、それを守るために期せずしてかかわることになった人たちの来し方と、戦後、その読書を維持するためにある自治体がとった行動と、夢を持ってそこに関わり出した子供たちと、ちょっとでも心ある人たちが予感していたその日の危機と後日談、そしてふたたび、日比谷図書館の現在を描きながら、「読書すること」の意味を問い続けることを生業とする人たちの姿を追う映画(DVD)を見ました。

知人に「どうしたの?」と言われるほど驚いたことに、この映画の生き証人のお1人が私が仕事でお世話になった方の夫君でした。
仕事を終えたあと、このご夫妻とお食事をする機会がありました。ご夫妻から戦後間もなく、地方の生活改善運動に関わったことを伺っていたのですが、戦前からそうだったんだ!とびっくり。ご父君は「ぼくは、地方の青年に文化っていうものに親しくなってもらいたかったんだ」と何度となく熱く語っていらっしゃったこと、いかに戦前戦後の地方、とくに農村漁村の若い人たちは働くことしかなかったか、という話を、孫ぐらいの年齢の私たちに噛み砕くようにお話くださったのですが、すべてがピタっと収まった気がします。

淡々としたドキュメンタリー映画です。人のために本を保存する、ということに力を尽くす人たちを描くここの映画の主たる舞台は「東京のど真ん中」である日比谷ではありますが、決して「東京の」「中央の」文化を描いたものではなく、「地方」にこそ本当の読書文化を根付かせようとした動きや、第二次世界大戦が終わってからも今なお止むことのない戦争のなか、本を守ろうとする人たちの動きを伝え、本への想いというものは空間も時空も超える存在なのだ、ということを訴える映画でした。

昨日まであった本が無くなってしまうのは「戦争で」だけではない。

東北の小村が自治体なのに本を寄付で集めるというニュースには私も記憶がありました。
ニュースを見たときにはそれが「飯館村」という名前だとは知りませんでした。
この映画で私は初めて、あのニュースと、この村の名前が合致しました。
飯館村ではこういうことをやっていたのね、と思うととたんに鼻の奥がツンと痛くなり、涙が出てきました。

目の前は飯館村の子供向けの本を集める運動に応えた人々からの絵本に、幼稚園児が本当に楽しそうに本をめくり、小学生が本をお互いに紹介するだけでなく、中学生は習い始めた英語を使って集まった絵本のいくつかを英訳をし、絵本と縁の遠い外国の子供たちに贈るという、まさに人から人へと手渡されていくものがあることを伝えるシーンが流れていきます。

それは2010年の秋か冬のようでした。

子どもたちの恥ずかしそうな表情、それでいて、カメラを前に本との出会いの喜びを隠せない様子を見せている、そういうシーンに胸が痛くなりました。

いま、私たちは、その後何が起きたのかを知っているからです。

地方と本という関係で飯館村を描く予定だったのです。ところが、この村へ帰ることは難しくなりました。
しかし、お母さんたちは、村の幼稚園の図書室に集まって、本の除染を行いました。
いま、飯館村の人たちが暮らす仮設住宅には大人向けの本を中心とした移動図書館が本を届けています。

2011年3月11日以降の飯館村をめぐるシーンに「子供たち」は出てきません。
そこにも哀しい思いを覚えました。
どうか、あの瞬間までに読んだ本を覚えていてくれていますように。

常々、読書行為は年齢を問わない、と思っている私は、年若い友達から興味深い本を教えてもらったり、年長者に「面白そう」と言わしめる本を紹介したりすることがあります。
いま、何を読んでいるの?という会話が成り立つ関係があるのは、本当にうれしい。
以前話した本のことを覚えている相手のおかげで、そこから話が再開する時がある。自分のことに興味を持ってくれたんだ、と思えて、本当にうれしい。

たくさんの本から自分が読んでみたいと思う本を手にとることができるのは、本当に幸せ。
期せずして自分好みの本と出合うと、本が「気づいて」って私を選んでくれたんじゃないのかな?って思うことがあります。
読書という形が変わって行くのを目の当たりにしているこの頃、タブレットで読書だと言う人が増えている。欲しいところだけ、知りたいところだけわかればいい、という声もある。読書っていうのはそういう物じゃない。紙を一枚めくる、そこの感覚も含めて、読書なんだと。次はどんな色なんだろう、って。あの枠があっちゃダメなんだ、本は、って思った。
そしてタブレットの中身は私を選んでくれない。

ああ、この映画をわざわざ見に行ってよかった・・・。

日比谷図書館はつい先年、都立図書館から千代田区立図書館となりました。
私自身は日比谷のような素敵なところで就業することはなかったので縁遠い図書館でした。しかし、大学時代の「本当に本が好き」な先輩は、わざわざ「定期持ってるし」と、仕事帰りに日比谷図書館によって本をかりていたそうですし、お堀沿いにあるビルが勤務地だった男友達は「自分の書斎」と言っていました。サラリーマンの図書館と言われた由縁を、身近な人たちがまさに体現していたのです。

東京に暮らすようになり、「日比谷」というところも決して「遠い場所」ではなくなったのですが、ちょうどリニューアルの時期で寄ることもなかったですし、家から自転車で30分あまりのところにある都立図書館のほうが馴染みもあったので、今日にいたるまで日比谷図書館は未踏の地(!)となっています。
とはいえ、無関心ではありません。
日比谷図書館は、千代田区に移管された時に「日比谷図書文化館」という変わった名称に変更されました。申し込みもネットでできますし、面白い企画(講演会)ばかり。

引っ越しが終わったら、ってことはつまり年明け企画でしょうが、何か申し込んでみようと思っています。
Commented by tejisekki at 2015-10-29 00:07
映画、とても見たくなりました。
帰省したときに、DVDで見られたらいいなー。
原作本もあるんですね、DVDが無理なら探して読みたいと思います。

年末の帰省、映画や本に触れられるのが今からとても楽しみです。
Commented by eastwind-335 at 2015-10-31 10:13
tejiさん、こんにちは!ドキュメンタリーなので堅い映画ではあるのですが、本に思い出がある人だったら、ああ!という気持ちになる映画です。
飯館村のシーンは本当はもっと違う形で取り上げるはずだったのだろうと思うと・・・。あそこに映っていた子供たちは元気にどこかで本を読み続けていますように、と願ってます。
本から得た感動はいつまでもその人の心の中から消えることはないと信じて。
by eastwind-335 | 2015-10-23 21:53 | Books | Trackback | Comments(2)

東風のささやかな毎日のささやかな記録


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